明治学院大学

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社会学部

社会福祉学科

社会福祉学科

新保 美香 (担当科目:公的扶助論)

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 ◆ 専門領域あるいは担当科目の紹介


公的扶助論A・B

「貧困」という言葉を聞いたとき、あなたはどんなことをイメージするでしょうか? 豊かになったと言われるいま、私たちが自分の生活のなかで、「貧困」を実感することは少なくなっているように思います。しかし、何気なく平穏な暮らしを送っている誰もが、生活上に起こる様々な出来事、たとえば、病気、事故などで受ける障害、失業、などをきっかけとして、収入を得ることが困難となったり、家族の支えが得られなくなったりする可能性を持っています。「貧困」な状態となることは、決して特別なことではありません。

このような状況で、日々の生活を営むことが困難となったとき、国がその責任において、生活を保障するしくみが、公的扶助といえます。日本では、生活保護法が、憲法25条にもとづき、「健康で文化的な最低限度の生活」を具体的に保障する制度としての役割を担っています。日本に限らず、世界各国で、社会福祉は「貧困」と向きあいながら、展開してきました。「貧困は個人の責任」という考えが主流であった時代には、「貧困」であることを、良くない事としてとらえがちでした。貧困であることの烙印を押したり、刑罰を与えたりしていた時代もありました。また、施設の中での労働を提供することを救済の手段としていた時もありました。日本においては時代の流れとともに、金銭による援助を行うようになっていきましたが、対象を、障害を持つ人や、高齢者などに、かなり限定していた時もありました。現在のように、生活に困った時に、誰でも、無差別平等に、生きていくための権利として生活保護を利用できるという考え方を基礎に制度が整備されるまでには、長い歴史を経ているのです。

近年、生活保護制度は見直しが行われており、生活保護基準の大きな見直しが行われているほか、「自立支援プログラム」が導入されるなど、制度のあり方そのものの変革の時期を迎えています。

「人の命を守る、最後の安全綱(ラスト・セイフティー・ネット)」としてこれからの生活保護制度がどのようにあることが望まれるか、検討していきたいと思います。また、実際に貧困な状態にある人々に対し、社会福祉の専門職として活動するソーシャルワーカーが、どのような援助をしていくことができるのか、その可能性を、みなさんとともに、模索していくことができれば幸いです。


 ◆ 専門領域の理解を深めるための文献紹介


公的扶助のことを知りたい方へ

1 役所てつや案・先崎綜一著『フクシノヒト』文芸社
市役所に就職して、はじめて配属された職場は「福祉課保護係」だった・・・。新人ケースワーカー(社会福祉主事)が生活保護の仕事をとおして成長していくストーリー。生活保護の仕事を知る入門書としておススメです。
2 三矢陽子『生活保護ケースワーカー奮闘記』ミネルヴァ書房
現代の日本における「生活保護」を必要とする人々の生活の状況。そして、そうした人々にかかわる生活保護のケースワーカーの日常や、悩み、喜びが、リアルに描かれているノンフィクション。パート2とともに読んでみてください。
3 篠田節子『死神』文春文庫
福祉事務所のケースワーカーをモチーフにした小説です。人間にかかわる人間のストーリー。篠田さんは生活保護ケースワーカーの経験者です。
4 松井計『ホームレス作家』幻冬舎アウトロー文庫
この本は、筆者が住居を失い、妻子とともに福祉事務所に相談に訪れるところから始まっていきます。福祉事務所は、筆者に明るい未来をもたらす存在となりえたのだろうか・・・。筆者が自らの生活基盤を取り戻し、妻子との絆を取り戻し深めていくプロセスから、学ぶことが多々あります。続編『ホームレス失格』(幻冬舎)、『家族挽回』(情報センター出版社)、『ホームレスだったぼくから、きみたちへ』(実業之日本社)もあわせて読んでいただきたいです。

公的扶助の学びを深めていきたい方へ

1 東京ソーシャルワーク編『How To 生活保護(自立支援対応版)』現代書館
現在の生活保護制度の内容やしくみを把握し理解するための好著です。
2 柴田純一『プロケースワーカー100の心得』現代書館
生活保護の仕事をするケースワーカーにとって必要な100以上の心得がこの一冊に載せられています。プロの知恵がここにあり。
3 岡部卓『福祉事務所ソーシャルワーカー必携』全国社会福祉協議会
生活保護の実践活動に関する基本の書です。

読んでおきたい古典

1 小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用(復刻版)』全国社会福祉協議会
現行生活保護法の解釈と運用の書。法律の成立過程や法律の解釈の内容から、今の制度に込められた期待や、崇高な理念を目指した法律であることを実感することができます。
2 シャルロット・トール(小松源助訳)『コモン・ヒューマン・ニーズ』中央法規
現行生活保護法制定時に、アメリカから紹介された、新人ケースワーカーのためのテキスト。人間の基本的欲求(ニーズ)を理解し、援助していくことによって、「真に」利用者の自立を支援していくことができることを教えている名著。ぜひ読んでいただきたい一冊です。

 ◆ その他

福祉を志す高校生・大学生へのメッセージ

明学の3年生だったとき、配属された実習先「福祉事務所」での経験が、私を「現在」にいざなってきたように思います。そのとき出会った、生活保護を受けながら生活している方々の生きざまと、そうした人々と業務を越えて向き合うワーカーの姿に、どうしようもなく、ひきつけられてしまいました。

実際に生活保護の仕事に就くことができたのは、それから10数年経ってからでした。あこがれの職業だったにもかかわらず、実際に携わってみると、「想い」や「理想」と、現実に「自分ができること」とのあまりのキャップに、悩むこととなりました。社会福祉はもちろんのこと、広く物事の考え方を学び、自分のものにしておく必要性を痛感しました。

現場での私の支えは、仕事を通じて出会うことのできた、「生きていくことの素晴らしさ」を、自らの生きる姿をもって教えてくださった方々の存在。そして、よき先輩や同僚、関係機関の仲間たちの、バックアップでした。この、大学という場においても、人と関わる中で生まれ、もたらされるものを大切にしながら、「想い」を失わず「理想」を追いかけつづけていきたいと願うこのごろです。

社会学部生のための手引き集

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