明治学院大学

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社会学部

社会福祉学科

社会福祉学科

岡本 多喜子 (担当科目:老人福祉論)

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 ◆ 専門領域あるいは担当科目の紹介


老人福祉論A・B

たくさんの?の存在

・「老人」って誰?

日本は今、高齢化社会から高齢社会へと向かっていると言われています。日本の総人口は減少を始めました。そして、2035年には全人口の30%以上が65歳以上者で占められることは、ほぼ確実な推計値とされています。これらのことから65歳以上人口である老人の増加により、日本社会では高齢者の存在が社会問題化し、このままでは近い将来「何か大変なこと」が起こるように言われています。本当でしょうか?

今ここでは、「65歳」という年齢を基準として高齢者を考えています。もしこの年齢基準を変更したとすると、どのようになるのでしょうか?どうして年齢基準は「65歳」なのでしょうか?「65歳」という年齢に到達した人々は、皆同じような状態と考えてよいのでしょうか?健康状態は同じでしょうか、考え方や生活の仕方はどうでしょう、同じような人生を歩んできたといえるのでしょうか。

ある年に「65歳」という年齢を迎えた方は、そのある年に90歳を迎えた方や30歳を迎えた方と比較すると、類似する時と空間、時代と環境の影響をそれぞれに受けていることでしょう。でもその事実から、ひとりひとりを同じと考えることはできるでしょうか。

そして、ここでわたくしが「65歳」以上の人々に対し、「老人」という言葉と「高齢者」という言葉を使っていることに気づかれたでしょうか?「老人」と「高齢者」は同じ者を指す言葉なのでしょうか。

「老人」とは誰のことを指しているのでしょうか?13歳の方にとって、17歳の方は年をとっていますが、17歳の方を「老人」と呼ぶでしょうか。では60歳の方が65歳の方を「老人」と呼ぶでしょうか。とても興味深い調査があります。何歳からが「老人」だと思いますかという質問に対して、多くの回答者の方は自分の現在の年齢よりも高い年齢を「老人」であると回答しているのです。つまり70歳の方は75歳や80歳からが「老人」であると回答し、75歳の方は80歳や85歳からが「老人」であると回答しているのです。

・老人福祉って何?

老人福祉は老人を対象とした福祉のことですが、日本の社会福祉法体系の中で考えると、老人福祉法を基本とした社会福祉制度ということになるでしょう。しかし「老人」という存在が漠然としていために、提供される社会福祉制度についても明確化されている部分とそうでない部分があります。

特に2000年4月より実施された介護保険制度との関係においては、老人福祉法はとても微妙な位置付けとなっています。具体的には老人福祉法よりも介護保険法が優先されてしまうために、従来は老人福祉法上で提供していた社会福祉サービスが介護保険制度上の介護サービスとして提供されることになる場合が多くなったのです。そして介護保険制度を利用するためには要支援または要介護という心身状態となる必要があるのです。利用方法も複雑なのです。

3:誰でも生き続けると「老人」になるのです

生物は皆、この世に生を受けた時から生き続けることを願うのではないでしょうか?人間にとって有益な存在であるかどうかではなく、生を受けたことの意味は、この世界の万物の構成にとって、何等かの役割があるためではないでしょうか?

そして生き続けると人間は「老人」になります。不老長寿は永年の人間の夢でした。不老はともかく、長寿が実現しつつある日本が、長寿を喜べる社会となるにはどのようなことが必要であるかを、一緒に考えてみませんか。


 ◆ 専門領域の理解を深めるための文献紹介

まず、皆さんにお願いしたいことは、小説、映画など関連するものをたくさん読んで、観てください。社会福祉に関係する分野ではなく、いろいろな分野にわたって読んでみてください。高齢者はいつの時代でもどの地域社会にでも存在する方々です。

1年生・2年生

1 群ようこ『モモヨ、まだ九十歳』ちくま文庫、1988年
高齢者は元気な方も多いのです。そして人生を長く経験しているだけに、なかなか立派な生活の知恵を持っているのです。
2 長谷川町子『いじわるばあさん』第一巻から第三巻、姉妹社、1983年
懐かしい「おばあさん」像と人々との関係が描かれています。「いじわる」をするにも努力と工夫が必要なのです。常に頭を使わなければなりません。
3 谷川俊太郎『おばあちゃん』ばるん舎、1982年
詩人からみた日本の家族介護は、1980年代にはこのように映ったのだと言う事がわかります。そして今はどうなのでしょう。
4 宮本常一『忘れられた日本人』岩波文庫、1984年
地域社会の中で、老人の役割が生活の隅々に生きていたことを知ることができます。今考えられている「老人」像との違いは、どこから生じたのでしょうか。
5 武田京子『老女はなぜ家族に殺されるのか』ミネルヴァ書房、1994年
家族による老人殺しをテーマに、具体的な事例の中に隠されている問題点を明らかにしています。日本社会が抱えている「イエ制度」の残存意識、親子関係などの中に潜む闇の怖さを実感させられます。
6 伊東光晴・河合隼雄・副田義也・鶴見俊輔・日野原重明編著『老いの発見』(全5巻)岩波書店、1984年。
多様な分野から「老い」について語られています。「老い」という事実を考える上では、発見の多い本といえるでしょう。
7 日本老年行動科学会監修『高齢者の「こころ」事典』中央法規、2000年
高齢者に関する様々なことが、見開きの頁で簡潔にわかり易く書かれています。気になるけれども、よくわからないという事柄を調べるときに便利な事典です。
8 井上勝也監修『事例集 高齢者のケア』中央法規、1995年
介護保険制度が開始される以前の高齢者が抱える課題を、事例を通して解決策を提示しています。介護保険制度の実施により、変化した側面はありますが、基本はかわっていません。


3年生・4年生

1 シモーヌ・ド・ボーヴォワール著、朝吹三吉訳『老い』人文書院、1970年
古今東西の多様な文献から、「老い」の本質的な解明を試みた一冊です。高齢者について知るための基本的文献です。
2 E.H.エリクソン、J.M.エリクソン、H.Q.キヴニック著 朝長正徳、朝長梨枝子訳『老年期』みすず書房、1990年
社会心理学者であるエリクソンが高齢期を発達段階の最終ステージと捉え、事例調査を踏まえて高齢者期のあり方を論じたものです。
3 染谷俶子編『老いと家族』ミネルヴァ書房、2000年
日本を中心とした家族と子との関わりについて多面的な側面から論じています。家族形態の変化、介護状況、痴呆性高齢者の課題などの他に、韓国、スウエーデンの状況について掲載されており、日本の高齢者を考える参考になります。
4 エドガー・ミラー、ロビン・モリス著、佐藤眞一訳『痴呆の心理学入門』中央法規、2001年
心理学からみた痴呆性高齢者を理解するためのガイドブックです。痴呆という症状を知り、どのように対応していくことが大切かを考えるための参考になります。
5 土肥徳秀『全国一律不公平』萌文社、1999年
介護保険制度の仕組み作りに関わった著者が、当初制度化された介護保険制度の問題点について論じています。介護保険制度について考えるための参考書のひとつといえるでしょう。
6 クリスティーン・ボーデン『私は誰になっていくの?』クリエイツかもがわ、2003年
若年性アルツハイマーを発症した女性の手記です。出来ていたことが出来なくなる不安など患者の内面の葛藤が、読者に伝わってきます。

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